7/28 18:00
明日、ドラゴンクエストⅩⅠが発売される。
現在、高校3年生。同級生の50%以上が受験勉強に励む時期。自分もその中の一人。
当然、ドラクエⅩⅠは"買う"。
いや思い返せば、心に迷いはあった。受験生という罪悪感のせいだ。発売直前まで、俺はドラクエⅩⅠをプレイしてはいけないと思っていた。ドラゴンクエストが自分の人生にどれだけ影響を与えたかを考えずに…。予約が遅れて、受け取りが8月2日になったのだってそのせいだ。(普通は7月29日にプレイし始める。)あの時もっとドラクエのことを考えていれば…思ってやれば…。
でも、人間は振り返ってばかりじゃ前に進めない。金は払った。もう後戻りはない。これは決定事項。あとはドラクエⅩⅠを楽しむという未来があるだけ。
覚悟はいいか?オレはできてる
この夏、俺は勇者になる。
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7/29 18:00
問題が起きた。
発売日の今日、世間はドラクエⅩⅠに沸いた。世間の熱が俺の日常に干渉し始めた。
考えることと言えばドラクエⅩⅠのことばかり。やることといえばドラクエⅩⅠのネタバレ回避ばかり。
ドラクエ欲を抑えきれなくなった俺は、あの時の心の迷いを後悔した。どうせ買うのになぜ早めに予約しなかったのか?なぜドラクエを自分にとっての悪かもと考えたのか?
もう、受験なんて関係ない。あと5日も待てない。いまの俺に自制心なんてない。しかし、ドラクエは手元にない…。
そんなとき、自分のゲーム棚から一筋の光明が差し込んだ。
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7/29 21:00
家にドラクエVのDS版リメイクがあった。
初めて触れたドラゴンクエストがⅤ。思い出は多い。
ヘンリー王子の部屋にある、隠し通路が丸2日見つからなかったこと。パパスが死んで泣いたこと。なめてかかったブオーンにボコボコにされたこと。そのブオーンを倒すときにフバーハやスクルトなどバフ系呪文の有用性を知ったこと。フローラを選んだ友人と本気でケンカしたこと。パパスの敵であるゲマを倒して、もう一度泣いたこと。
例を挙げればキリがない。
久しぶりに開いたドラクエⅤはラスボスを倒す直前だった。
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7/30 0:00
DSのドラクエⅤが2008年だから9年の間、俺は世界の平和を放置していた。
エビルマウンテンを下って、オラクルベリーのカジノで9年も遊び続けていた勇者。
「世界を救わなきゃいけない。」
使命を持った俺の意志は強かった。5日かけてクリアすればいい。ドラクエⅩⅠが発売されるまでに戦力を揃えてやる。ラスボスを倒してやる。そう思い、エビルマウンテンに向かう。まずは敵の実力を知ることだ。雑魚相手に苦戦するようじゃラスボスなど夢のまた夢である。メタル系を倒してレベルアップも考えなければならない。
だがそんな思いとは裏腹に、考えていたよりも周りの雑魚が弱かった。何だか言いようのない不安を感じた。
気付くと、もう勇者一行はラスボスの前に辿り着いていた。バトエンで見たことあるから、そうに違いない。ちなみにその一つ前の部屋の宝箱は開けられていた。
そう、おそらく以前の俺は、ボスの目の前まで行ってゲームをやめている。今となっては分らないが、何らかの理由があって、世界を救うことに躊躇したからだろう。もしかしたら将来、自分がこうなることを見越して、未来にそのバトンを託していたのかもしれない。過去の自分が誇らしく思える。
まだ準備不足だが、とりあえず目の前のミルドラース(ラスボス)と戦おうと思った。
負けたっていい。なにせ8年越しのボスだ。せっかくなら骨があるやつと戦いたい。俺にこの5日間を楽しませてほしい。
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7/30 1:00
結論から言おう。ミルドラースは弱かった。不安の正体はこれだった。通りでボス戦までの雑魚に全く手ごたえがなかったのだ。
やつは第二形態まであった。普通だったらプレイヤーが絶望の淵に沈むような場面である。でも、俺は切に第三形態を願った。ボスがこんなに弱いわけがない、と。プレイヤーを油断させ、より深い絶望を味わせるための演出だろう、と。ドラゴンボールのフリーザだって第四形態まであった。ラスボスがザーボンごときと同じじゃ困る。
だが、そんな願いも虚しくミルドラースは倒れた。仲間は一人も死ななかった。何なら久しぶりすぎてマップから酒場を探し出すほうが手こずった。なんだこれは。
ボスはマーサ(母親)の敵であるというのにあまり気持ちも乗ってこなかった。たぶんマーサのことはストーリー上じゃ、人伝いにしか聞いてこなかったからだ。俺のイマジネーションが足りてなかった。まだ見ぬ母親に思いをはせることができなかった。
だからそれゆえ、過去の俺は、幼少期、冒険をともにし、ことあるごとにホイミをかけてくれた父、パパスの敵を討って物語を終わらせたのだろう。俺は8年越しに過去の自分の思いを踏みにじっただけなのだ。もしかしたら8年前の俺は、もう一度初めからやり直して、母親の思いも辿っていくつもりだったのかもしれない…。
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最後のボスは倒した。
だが、現実に対処できないオレは固く心を閉ざしてしまう。
約束の時が来る。
迫り来る受験全滅の危機。
死の淵へと追い詰められる浪人。
ⅩⅠ発売とともに発動へと導かれる人類補完計画。
己の現実に抗い、夢を需要する人々の頭上にドラゴンクエストシリーズが舞い下りる。
暴かれる欺瞞を嘲笑うかのように。
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この次も、サービス、サービスゥ!
おわり