猛者日記

大学生のブログです

五円玉の中心で、太陽を描く

さいころ、絵を描くのが下手だし、そのせいで苦手だった。だが、一度だけ絵が学級通信に選ばれたことがある。

 

 

 

小学生のころ、学校で五円玉の授業を受けた。もちろん当時10歳の自分でも、五円硬貨には額面5円の価値があるということは知っていた。

 

五円玉二枚で五円チョコ二つ。駄菓子屋で知る資本主義の真理だ。だが、当時の担任は五円玉の真の価値は、五円玉のデザインにあると言う。

 

初めは10歳のいたいけな少年を馬鹿にしているのだろう。そう思っていた。

 

しかし彼女は、当時の担任は、こう言うのである。『五円玉には五円チョコを買うよりも良い使い方がある。デザインを見ることだ!』と。

 

脳に衝撃が走った。常識というくだらない偏見に自分も持っていたのだと。

 

担任が続けるには、五円玉のデザインには、稲穂や海、歯車が描かれていて、それぞれに農業、水産業、工業のお意味が込められてるのだ、という。

 

要は、五円玉には日本を支える産業のアイコンが詰めこまれている、ということらしい。

 

「なるほど五円玉は五円チョコを買えるだけではないのか」と、当時の俺もこれには感心した。

 

デザインを楽しんでから五円チョコを買えばよいのでは?という疑問は晴れることはなかったが。

 

しかし、問題はその後の課題だった。

 

 

 

学校から課されたのは、「新しい五円玉を描け」というものだった。そう、苦手な絵を描く課題だった。

 

担任から、正確に言えば前の席のえいじ君から、大きい丸の中に小さい丸が書かれただけの白い紙が配られてきた。

 

苦悩した。

 

そのころ、一番嫌いなものといえば、キュウリよりもニンジンよりも、絵を描くための白紙だった。

 

一生懸命、何を書くか考える。

 

だが浮かばない。

 

何度考えても浮かばない。

 

「クソっ五円玉なんぞ知るか、死ね!」小学5年とは思えない、心は荒れようだ。

 

そんな自分を見兼ねてか、担任がアドバイスしに来る。

 

『お前が思う日本を支えているものは何なんだ? その思いをぶつけろ』

 

机の上の白紙を見つめて、日本経済に思いを馳せる。そして、一つの結論に至った。

 

家電量販店だ、と。

 

日本を支えているのは「コジマ」だと。

 

 

 

俺の家はコジマでテレビを買ったばかりだった。アナログからデジタルに変わった瞬間。コジマこそ我が家のクールジャパンだった。

 

自然な流れで五円玉の中心にコジマのロゴを、太陽を描いた。f:id:ippanshisei:20171001190803j:plain

単なる反則だった。五円玉の真ん中を太陽で埋める。五円玉アイデンティティの全否定をした。

 

真ん中の穴を五円・五十円の寡占から五十円の独占に変える。つまり、俺はこの手で、日本通貨の歴史を変えてしまったのだ。

 

もちろんそんなこと許されるわけがない。許されていいわけがない。教室のみんなから罰せられるだろうそう思った。

 

 しかし、自体は急転する。

 

 

太陽を小学生らしい元気の良さだと思ったか、はたまた絵を描けなかった自分への情けか、あろうことに担任は真ん中太陽の五円玉案をクラスの代表に選んだ。

 

この日、5年1組の5円玉から穴が消えた。俺が歴史を書き換えてしまった…。

 

5円玉のデザインが変わる。当然、その事実は公布し、広く報せなければならない。穴のない五円玉は学級通信に掲載された。

 

 

 

その後、授業参観で、クラスメイトの親たちに『絵うまいね』と幾度となく言われた。

 

過ちに気付いていた自分には、その言葉はただの皮肉にしか聞こえなかった…。大人は腐っていると思い始めたのは、この時だった。

 

 

 

私たちが何気なく使っている5円玉。あなたはその穴から何が見えますか?

 

私には何も見えません。私の5円玉に穴などないのですから。