『ローグ』とは1980年に発売されたコンピュータゲームである。
一度死んだら初めからというシビアなシステムや自動生成の複雑なダンジョン、ターン制の駆け引きなど当時では考えられなかった革新的なゲームシステムが、好事家たちの間で人気を博し、ローグ発売以降、現在に至るまで数多もの後継作品が製作された。
このローグと類似したシステムを持つゲーム群を『ローグライク』と総称し、インディーゲームを中心に一大ジャンルを担っている。
日本でも『風来のシレン』『トルネコの大冒険』『ポケモン救助隊シリーズ』など「不思議のダンジョン」と呼称されるものは、基本的にローグライクに分類されるゲームである。
ローグライクゲームはそのシビアなゲーム性から大衆からの支持を得難い。しかしその代わりにローグと聞けばすぐに食いつく熱心なファンが界隈を支えている。
こうしたファンは善良なローグライク開発者からすれば最良の味方であるのに対し、悪徳ゲーム開発者からすると絶好のカモとなる。
そのため、徐々にローグとは似ても似つかないシステムやクオリティの低い粗悪品も、ローグライクゲームを名乗り始めるようになった。
どれだけ評判が悪くなろうと、初速で一定の販売数を獲得できれば勝ちというのが、悪徳ゲーム開発者の販売戦略である。
この問題の大きな点は、ローグライクという定義の曖昧さにある。
当時は開発側の裁量によって定義は大きく揺れ、極端な話、発売する開発者自身がローグに似ていると思えばローグライクを名乗れてしまう状況だった。
こうしたローグライクを取り巻く環境に問題意識を持ったファン兼開発者たちは、2008年とうとうその重い腰をゲーミングチェアから上げ、ドイツに一堂に介した。
ここで開かれた会が「第1回 International Roguelike Development Conference(通称:IRDC)」である。この第1回IDRCの中で開発者たちにより、改めてローグライクの定義と構成要素の明文化が試みられた。
それこそがベルリン解釈である。
ベルリン解釈は現在においてもローグライクゲームを制作する際に最も重要な指標であり、
ローグライクゲームという暗い海を進む開発者たちにとって灯台のようにひとすじの光をしめす。
また、ベルリン解釈で定義されたいくつかの要素・項目を意図的に省き、これまでのローグライクでは実現が困難だった、遊びやすさやアクション性の高さ、RPG的な成長要素など加えたものをローグライトと呼称することを補足する。
2021年ゲームオブザイヤーのノミネートやネビュラ賞ゲームライティング部門を獲得した名作『HADES』もローグライトに分類される。
前置が長くなったがここからが本題である。
ベルリン解釈の要件に寄り添えば、イロモネアはローグライクと定義することができるだろうか?
ベルリン解釈についてはこのページ(http://www.roguebasin.com/index.php/Berlin_Interpretation)を参考にした
『ザ・イロモネア』とは、2005年からTBSで放送された芸人コンビ・ウッチャンナンチャン司会のお笑い番組で、
挑戦者となる芸人が、ステージごとに5つのジャンル(一発ギャグ・モノマネ・ショートコント・モノボケ・サイレント)から一つを選び、
その内容に沿ったネタで、会場にいる100人からランダムに選ばれた5人の客の内3人を1分以内に笑わせることが出来ればクリア。
それを4ステージ、ジャンルを潰しながら繰り返し、最終ステージでは5人全ての客を笑わせることが出来れば100万円獲得する。
というルールで、仮に1stステージでも1分以内に3人を笑わせることが出来なければ敗退となり、
その後は次回収録に呼ばれるまでコンティニューすることは叶わない。
このルールは非常にローグライク的であり、少なくともローグライトの定義は満たしているように感じる。
そこで実際にベルリン解釈で定義された構成要素を見ながら一つ一つをイロモネアに照らし合わせていこうと思う。
①ランダムな環境生成(Random environment generation)
ゲームの世界はランダムに生成される。アイテムの出現と配置はランダム。モンスターの見た目は固定。固定コンテンツ (ストーリー、パズル、金庫室) にはランダム性は必要ない。
前述の通り、イロモネアではあらかじめ5つのジャンルが決められていて、順番もランダムではなく挑戦者の芸人が選択することが出来る。
そのため環境のランダム要素は薄いと言える。強いて言うならばモノボケの品物だが、それもある程度は固定されている。
ではイロモネアのランダム要素はどこにあるのか。それは笑わせる対象となるターゲットの観客である。
これは対象であるモンスターがランダムになっているようなもので、モンスターファーム×ローグライクという新たなゲーム性を実現していると言える。
またターゲットの観客を芸人が特定できないルールは興味深く、4ステージをこなす中で、ある程度ターゲットの像をプロファイリングし、最終ステージでそのターゲットに合わせたネタをチョイスする技量が問われる。またパワーを重視して、100人全てを笑わせる方針を取るのも選択肢の一つであり、視聴者はプレイヤーに沿ったゲームプレイを楽しめる。よって一部アレンジされた上で要素を満たしている。
②恒久的な死(PermaDeath)
死ぬと最初のレベルからやり直し。( 途中保存は可能。但し二度同じセーブファイルをロードすることは出来ない)
ランダムで生成される環境は、ゲームのやり直しを苦痛を与えるものではなく、楽しむためのものとして機能している必要がある。
各ステージごとに3人以上を笑わせないまま、制限時間である1分が過ぎれば恒久的な死が待ち受けていて、次回収録まで再挑戦は叶わない。また番組自体に呼ばれなければ恒久的な死は更に揺るがしがたいものとなる。よって要素を満たしている。
補足として、レギュラー後期ではゴールドラッシュシステムというイロモネア挑戦権を獲得出来るアップデートもされているため、決してチャンスがないというわけではない。
③ターン制(Turn-based)
全てのコマンドが一回のアクションと見なされる。ターンにシビアな分、現実時間の制限はない。
前述の通りイロモネアはステージごとに時間制で進行していくため、この要素は満たしていない。ただしステージ選択の際のみは時間が止まるため、ターン制とリアルタイムアクションの複合と定義することは可能である。
④グリッドベース(Grid-based)
ゲーム世界が格子状に区切られたタイルで表現される。モンスター(及びプレイヤー)はどんなタイプでも、一体でタイル1マス分の大きさになる。
プレイヤーの舞台に格子状の区切りはなく、行き来も占有面積も自由であり、プレイヤーはこの要素を満たさない。しかし観客の顔は格子状に区切られ、老若男女、もちろん身長にも関わらず、1マスに一人が収まっている。決して一つのマスに二人の観客、もしくは二つのマスを一人が占有することもない。そのためモンスター側はこの要素を満たしている。
⑤ノンモーダル(Non-modal)
行動、戦闘そしてその他の行動は同じモードで進行する。ゲームのどのタイミングでも、全ての行動が出来る。
各ステージはジャンルが与えられ、そのジャンルから逸脱する行為は認められない。またネタ以外の行動は有効でないため、この要素は満たしていない。
⑥複雑さ(Complexity)
ゲームは目標達成のために複数の解決方法を考えることが可能となるだけの複雑さを有する。また単一のルールを有すること関連する。
イロモネアは複雑さこそないものの、プレイヤーには複数の解決法が可能な自由度を与えられている。
挑戦する芸人によってネタの内容は十人十色であり、ジャンルが固定されることによって、コンビごとの特色がより明確に際立つため、ルールが単一であることに深く関連するシステムであり。要素を満たしている。
⑦リソース管理(Resource management)
プレイヤーは限られたリソースを管理する必要がある。また受け取ったリソースは用途を模索し、有効活用する。
各ステージの時間は有限であり、そのリソースをいかに活用するかが鍵になる。
またモノボケステージでは実際にアイテムを受け取り、その最適な使い方を模索することとなるため、要素を満たしている。
⑧ハックアンドスラッシュ(Hack&Slash)
ゲーム中で何よりも重要なのは敵を多く倒すことであり、プレイヤーVSゲーム世界が望ましい。(モンスター同士の争いはない)
イロモネアにおいて観客を笑わせるのは、プレイヤーである芸人のみで観客同士で笑わせ合うことはない。またランダムに5人選出されるシステム上、100人全員が敵=ゲーム世界が敵であるため、要素を満たしている。
⑨探索と発見(Exploration and discovery)
ダンジョンレベルの注意深い探索や未確認アイテムの発見は、プレーヤーが新しいゲームを開始するたびに行う必要がある。
前述の通りイロモネアはシンプルな設計であり、モノボケも基本的に同一アイテムも固定である。そのため探索と発見があるとは言えず、この要素は満たしていない。しかしバナナマン設楽が火事で溶けた携帯を使用した例もあるため、軽視するべきではない。
このようにベルリン解釈における、価値の高い要素の9つのうち、6つが要素を満たしている。また他の3つも条件付きで要素を満たす場合がある。ここまでベルリン解釈の価値の高い要素を満たした、ローグライクゲームは相当な近年のフォロワー作品には少なく、相当な優等生と言える。
結論:イロモネアはベルリン解釈に則って、ローグライクゲームだと定義できる